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高齢社会におけるモビリティのあり方~韓国との比較を通して~

 OECDの統計データ によると、OECD加盟国35か国の中で高齢化率(65歳以上人口比率)が一番高いのは日本であり25.1%の値を示す。すなわち、国民の4人に1人が高齢者であり、二番目に高齢化率が高いドイツの21.4%(2014年)を大きく引き離している。20%代はイタリアを含め3カ国のみであり、あとは20%未満である。このようなことから我が国は高齢社会先進国といわれ、各国から高齢者対策について注目されている。
 実際、買物難民の話や高齢者のブレーキとアクセルの踏み間違えによる歩行者を巻き込む悲惨な交通事故などの話は、頻繁に新聞、テレビで報道されている。特に2002年の乗合バスの規制緩和により、路線の廃止、事業からの撤退が容易になり、山間部など人口集積が少ない地域を中心に、生活路線であったバス路線の多くが廃止されている。通院、買物、通学などに必要なバス路線の廃止は、地域住民の生活に大きな支障をきたすこととなる。これに対して、公共も市町村もコミュニティバス(市町村バス)、デマンド交通、Uberシステムを用いた自家用有償運送など様々な施策を実施しているが、財源問題をはじめ、法規制の問題などにより、なかなか上手くいっていないのが現状である。
 高齢者が安心して暮らせるためには、モビリティが重要な役割を果たすことは言うまでもない。人々は歳をとるに従い、身体的な制約が大きくなるため、若い頃のように自分の思うように動くことができなくなる。言い換えると、高齢者が望むサービス水準と実際自分で充足できるサービス水準の間には差があり、このギャップをどのようにして埋めるかが本研究における議論の中心となる。
 韓国の高齢化率はOECD統計データによると、12.7%(2014年)であり、日本の半分以下である。しかし、そのスピードは急速であり、2060年には日本の高齢化率40%に追いつくといった試算もある。韓国においても、高齢社会における高齢者のモビリティをどのように確保するかといった問題意識のもと、KOTI(韓国交通研究院)において朴正郁氏を主査とする研究プロジェクト「高齢化社会への対応のための公共交通ロードマップの構築」が立ち上がった。KOTI側から高齢社会先進国である日本の高齢化の状況、問題・課題、対策に関する情報・知見を得たいという要請があり、それに対して、IBSのR&Dの予算を原資に日本側でも「高齢社会におけるモビリティのあり方~韓国との比較を通して~」と題する研究プロジェクトを立ち上げ、我が国においてこれからますます高齢化が進む中、高齢者のモビリティ確保をどのようにしたらよいか、高齢者のモビリティに重要な役割を果たす公共交通サービスを中心に議論を進めた。IBS若手研究員である廣川和希、田中啓介、正木恵、外部から中央大学鹿島茂教授、前橋工科大学森田哲夫教授、KOTIの朴正郁氏からなる研究チームを構成し、2016年~2017年の2年間に渡り、国内での研究会を11回、2016年には韓国KOTIにおいて「KOTI-IBS JOINT SEMINAR」を開催するともに、日本、韓国を相互に訪問し合いミーティング形式で議論を進め、研究成果を冊子としてとりまとめた。本成果が日本、韓国の今後の高齢社会のモビリティ問題を考える際の基礎資料として役立てて頂ければ幸いである。