2025年11月14日、内閣府SIP第3期「スマートモビリティプラットフォームの構築/実践的なモビリティのリ・デザイン」の取組の一環として、IBSコンソーシアムとOECD国際交通フォーラム(ITF)の共同開催による「モビリティ・データ・ガバナンス・ワークショップ」を開催いたしました。
国内外170名(会場+オンライン)の専門家が参加し、モビリティ領域のデータをめぐる最新のデータガバナンスの潮流、日本・欧州それぞれの取り組み、今後の展望について活発な議論が行われました。
1.開催概要
| 日時 | 2025年11月14日(金)17:00~19:00 |
| 場所 | 日比谷スカイカンファレンス Room B |
| 主催 | IBSコンソーシアム・OECD国際交通フォーラム(ITF)共催 |
| 参加者 | 158名(会場参加28名、Web参加130名) |
| 登壇者 (敬称略) | フィリップ・クリスト(OECD国際交通フォーラム(ITF)イノベーション・アドバイザー) 越塚登(SIPサブプログラムディレクター(SPD)/東京大学大学院教授) デビッド・スクーンメーカー(ベルギー連邦公共サービス・モビリティ・交通省 ITS担当責任者) ルーシー・キルステイン(EITアーバンモビリティ モビリティデータ・エキスパート) 星明彦(国土交通省総合政策局モビリティサービス推進課 課長) 中村文彦(SIPサブプログラムディレクター(SPD)/東京大学大学院特任教授) |
2.話題提供
①21世紀のモビリティデータガバナンスの原則(フィリップ・クリスト氏)
データは物理インフラと並ぶ「新しい基礎インフラ」であり、社会価値創出にはガバナンスが不可欠であるとの視点が提示された。
相互運用性・オープン性・非一元化など欧州の原則が紹介され、生データよりもメタデータやインサイトが価値を生む点、データ共有は多様なデータを1か所に集中させるのではなく、複数の主体がそれぞれのデータを保持して緩やかに連携するフェデレーション型の仕組みが望ましい点が提案された。

②JMDSの取組(越塚登SPD)
欧州データスペースを参考にしつつ、日本の課題解決(安心・安全、交通混雑の解消等)に必要なデータプラットフォームとしての「Japan Mobility Data Space(JMDS)」の全体像が示された。
多様なデータをフェデレーション型で扱う仕組み、AIによる検索やデータカタログなどの実装状況が共有され、利用者側と技術側が共に作り上げる「co-creation」の考え方が強調された。

③NAPCOREの取組(デビッド・スクーンメーカー氏)
欧州ITS指令を背景に、各国のナショナルアクセスポイント(NAP)の調和を進めるNAPCORE(National Access Point Coordination Organisation for Europe)の活動が紹介された。
国境を越えたデータの調和・標準化、継続的な議論と仕様調整の重要性が示され、特に安全情報・公共交通情報の品質向上や、法整備・ヘルプデスク・技術支援などの実例が共有された。

④欧州モビリティデータスペース(EMDS)の現況(ルーシー・キルステイン氏)
欧州データ戦略のもと進む欧州モビリティデータスペース構築について、FAIR原則※に基づくデータ運用、自治体が自らデータを扱えるフェデレーション型アーキテクチャが紹介された。
※データを「見つけやすく(Findable)・アクセスしやすく(Accessible)・相互運用でき(Interoperable)・再利用しやすい(Reusable)」状態で扱うための国際的なガイドライン
複雑化を避けたシンプル設計、インパクトを出せる領域から始める重要性、実証ユースケースの積み重ねが鍵である。

3.パネルディスカッション「データガバナンスの最新動向と今後のあり方」

パネルディスカッションは、モデレーターの中村文彦 SPD進行のもと、話題提供を行った4名の登壇者に加え、国土交通省星明彦課長を交えた計6名で、「データガバナンスとは何か」を改めて整理し、目的や課題、日本版モデルに向けた示唆が多方面から示された。
●データガバナンスとは何か(目的・意義)
データは社会インフラであり、他のインフラと同様に、公共的価値を生むための仕組み(ガバナンス)こそが重要であるとの認識が共有された。
個人データ保護・透明性・責任の所在の明確化など、信頼性を担保する枠組みが前提であり、データや技術ではなく「人を見る」ことがガバナンスの本質であると指摘があった。
欧州側からは、長期的には社会全体の利益となるが、短期的には見えにくいという構造的課題も示された。
●データの整備・流通・活用・持続性
相互運用性、標準化、フェデレーション型構造の重要性が改めて強調された。
データの需要が見えないという問題に対し、ユースケースを用いた価値の可視化が不可欠であること、また、シンプルな設計、即効性がある領域から実装を始めることが、投資や参加者拡大に寄与することが指摘された。
データ連携基盤は社会に直接見えにくい 「invisible」 な存在であるがゆえに、その重要性が十分に認識されにくいという課題が共有された。
成果が即座に顕在化しない基盤であっても、長期的な視点で整備・運営することが不可欠であり、制度面・財政面の双方から持続的に投資を確保できる仕組みづくりが必要であるとの指摘が多くあがった。
●他分野との整合性
決済や医療での情報共有など、既にデータガバナンスが確立している分野との共通点が議論された。
日本における交通系ICカードのように、結果として広く社会価値を生んだインフラ例が紹介され、成功例の可視化が普及を促すとの示唆が得られた。
●日本版データガバナンスへの展望
欧州の枠組みをそのまま輸入するのではなく、日本の交通事業者の多くが民間である構造を踏まえた独自モデルが必要であり、官民連携の明確化、役割分担、財源設計が成功の鍵との指摘があった。
「議論」「共創(co-creation)」を時間をかけて行う文化が、日本のデータ基盤整備では特に重要であるとの指摘が繰り返された。
データは単なる数字ではなく人の行動を変える力を持つ資源であり、公正性・安全・効率といった社会価値の実現に向けた政策的基盤に位置付けるべきとの整理が示された。
●パネルディスカッションの総括(中村文彦SPD)
プランニングの視点からは、近年強調されるエクイティ(公平性)を指標として計画に組み込む動き、データ活用による可視化の進展を踏まえながら、データで未来像を可視化し(Visioning)、スモールスタートで試し続けながら実際の変化を検証する(Validating)ことで、議論と計画の質を着実に高めていくことが重要と指摘された。
また、本日議論された様々なキーワードをIBSと協力して体系化し、参加者へ共有する旨が述べられた。
4.クロージング(IBS石神)
クロージングでは、本ワークショップの一つの成果として、データは社会のインフラであり、社会価値創出のためのデータガバナンスの重要性を共有したことが挙げられた。
また、欧州では共創(co-creation)を通じて未来社会を形作る営みが進んでいること、本ワークショップを契機に継続的な議論文化を醸成していきたいという期待とともに、参加者・関係者との今後の継続的な議論を呼びかけ、ワークショップを締めくくった。